認知症の方と正しく向き合うために

実践的なサポート

認知症のある方を支える介護において、「どのように接するのが良いのか」「どうすれば穏やかに過ごしてもらえるのか」と悩むことは多いでしょう。そこで注目されているのが パーソンセンタードケア(Person-Centered Care) という考え方です。

これは「認知症の方を単に“支援が必要な人”としてではなく、“一人のかけがえのない存在”として尊重し、その人の視点に立ったケアを提供する」という理念に基づいています。この記事では、パーソンセンタードケアの基本理念と、認知症介護における具体的な実践方法について詳しく解説します。


認知症についてまずは正しく理解することが大切です。
認知症について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

認知症の基礎知識:症状から予防まで、まずは正しく理解しよう


パーソンセンタードケアの基本理念

パーソンセンタードケアは、イギリスの心理学者 トム・キットウッド によって提唱されました。彼は、認知症のある人の行動や感情には必ず理由があり、その背景を理解しながらケアを行うことが大切だと説いています。

この考え方の基本には、以下の4つの要素があります。

  • 個別性(Individuality)
    その人の過去の経験や価値観を尊重し、一人ひとりに合った支援を行う。
  • 尊厳(Dignity)と尊重(Respect)
    認知症になっても、一人の人間としての尊厳を守り、思いやりを持って接する。
  • その人らしさ(Personhood)の維持
    「○○さんらしさ」を大切にし、できることを活かせる環境をつくる。
  • 社会的関係の維持(Social Inclusion)
    家族や地域社会とのつながりを保ち、孤立を防ぐ。

パーソンセンタードケアの実践方法

高齢者と手を繋ぐ介護士

認知症のある方と向き合う際に、 理解し共感を持つことが大切 です認知症の症状や行動の背景を知ることで、適切な接し方ができるようになります。

1.否定しない・訂正しない

認知症の方の発言が事実と異なっていても、強く否定するのではなく、気持ちを尊重する。

例:「お母さんが迎えに来る」と言った場合 :「お母さんが来るのが楽しみですね」と受け止める。

2.落ち着いた態度で接する

  • 怒ったり大きな声を出したりせず、安心できる雰囲気をつくる。
  • 目線を合わせ、ゆっくりとした口調で話す。

3.分かりやすい言葉を使う

長い説明や難しい言葉は避け、シンプルで具体的な表現をする

例:「これを取って」ではなく、「赤いコップを取ってください」と伝える。

4. 共感を持って接する

認知症の方の言動に戸惑うこともあるかもしれません。しかし、その背景には 「不安」「混乱」「寂しさ」 などの感情があることを理解することが大切です。

例:

  • 何度も同じことを尋ねる場合:「さっきも言ったでしょ」と言うのではなく、「そうですね」と共感を示しながら対応する。
  • 昔の話をよくする場合:「それは昔の話だから…」と否定せず、「素敵な思い出ですね」と会話を楽しむ。

5. できることを活かすサポートをする

何でも介助するのではなく、 できることは本人にやってもらう ことで、自信や達成感につながります。

例:

  • 食事の際、スプーンやフォークが使いにくそうなら、持ちやすい食器に変えてみる。
  • ボタンがかけられない場合は着やすい服を用意したり、服を着る順番に並べて、できるだけ本人が着替えられるようにする。

6. 安心できる環境を整える

知らない場所や騒がしい環境は混乱を招くため、本人の習慣や過去を理解して、 安心して過ごせる環境 を整えることも重要です

  • 自宅では なじみのある家具や写真 を配置する。
  • 生活のリズムを一定にする(食事・入浴・就寝時間を揃える)。
  • 混乱を避けるために、わかりやすいサインや色分けを活用する

パーソンセンタードケアのメリット

高齢者と女性

パーソンセンタードケアを実践することで、認知症のある方だけでなく 介護する側にも良い影響 があります。

🔹 本人の不安や混乱が減り、穏やかに過ごせる時間が増える
🔹 介護者のストレスが軽減し、より前向きに関わることができる
🔹 家族や周囲との関係が良好になり、介護の負担を分担できる


まとめ

認知症介護では、 できなくなったこと」ではなく「できること」に目を向ける ことが重要です。パーソンセンタードケアを実践することで、本人が自分らしく生きることを支え、介護する側も無理なく関わることができます。

介護者にとって負担に感じる認知症の症状の多くは、環境の変化やご本人の心理的不安からくるものです。共感し、不安を取り除くケアを行うことで、お互いに穏やかに過ごすことができます

認知症のある方にとって 理解してもらえている」「大切にされている」 と感じられることが、何よりも安心につながります。日々の介護に、この考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか?

また、 介護は一人で抱え込まないことが大切です。 家族や地域の支援を活用しながら、負担を軽減していきましょう。

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