
食事は、人間にとって大切な営みであり、身体の健康を保つために必要不可欠なものです。しかし、高齢者や病気の影響で嚥下機能(食べ物を飲み込む力)が低下している方の場合、誤嚥や窒息のリスクが高くなります。このようなリスクを避けるためには、適切な姿勢と食事のサポートが不可欠です。
初めて介護をする方にとって、どのように食事をサポートすればよいのか分からないことが多いかもしれません。
基本的なポイントを押さえることで、安全で楽しい食事の時間を提供することができます。本記事では、正しい食事姿勢、介助の基本、そしてコミュニケーションのポイントを詳しく解説します。
食事介助のポイントは、以下の3つに集約されます:
- 正しい姿勢の保持
食事中の姿勢が適切でないと、誤嚥のリスクが高まります。食事介助の際には、背筋をまっすぐに保ち、軽く前傾姿勢にすることが重要です。これにより、食べ物がスムーズに喉に流れ、誤嚥を防ぐことができます。 - 無理なく食事を進めるペース配分
食事は一口ずつ、ゆっくりと進めることが大切です。食べるペースが早すぎると、飲み込む準備ができずにむせてしまうことがあります。介助者は、相手のペースを見守りながらサポートを行い、無理なく食事を続けられるようにします。 - 安心感を与えるコミュニケーション
食事中は、ただ食べ物を与えるだけでなく、リラックスした気持ちで食事を楽しめるように配慮することが大切です。穏やかな言葉や声かけを通して、相手が安心して食事に集中できる環境を作ります。
これらの基本を押さえることで、食事介助はより安全で効果的になります。この記事では、これらの重要ポイントを詳しく説明し、初めて介護を行う方でも理解しやすいようにサポートします。食事介助を通じて、相手の生活の質を高める手助けができるようになりますので、一つひとつ丁寧に覚えていきましょう。
食事介助の基本手順

初めて食事介助を行う際には、以下の手順に従うことで、安全でスムーズな食事のサポートが可能になります。
ステップ 1: 準備をする
- 環境を整える
食事をする場所を整えます。椅子や車いすの位置を調整し、食事の取りやすい高さに設定します。 - 食事内容を確認する
嚥下機能に合わせた食事形態(刻み食やペースト食など)を確認し、必要に応じて食事を準備します。 - 食器の準備
スプーンや箸を確認し、使いやすいサイズに揃えます。また、飲み物やお手拭きなども準備しておきましょう。
ステップ 2: 姿勢を整える
- 食事する方の姿勢を調整する
体をしっかりと支えるように、背もたれを調整し、足が床につくように足台を使用します。 - 軽い前傾姿勢を保つ
上半身を軽く前に傾ける(5〜10度)ことで、食べ物がスムーズにのどに流れやすくなります。
ステップ 3: 食事を進める
- スプーンや箸を使用して少しずつ食べさせる
食事は一口ずつ、ゆっくりと提供します。無理に急がせず、相手のペースに合わせて進めましょう。適切なサイズのスプーンを使用し、口の奥まで入れすぎないようにします。 - 咀嚼を促す
相手がしっかり咀嚼する時間を確保し、飲み込む準備が整うまで待ちます。 - 嚥下を確認する
喉仏を確認し、上下に動いたことを確認しましょう。飲み込んだ基準になります。
ステップ 4: 介助中の観察と声かけ
- 呼吸や姿勢を確認
食事中にむせていないか、息が詰まっていないかなどを確認します。むせた場合には、水分を提供する、または姿勢を調整するなどして対応します。 - 穏やかな声かけをする
落ち着いた口調で、「無理なく食べてくださいね」「ゆっくりで大丈夫ですよ」など、リラックスできる声かけを心がけましょう。
ステップ 5: 食事後の確認
- 食後のケア
食後に水分を摂取させたり、口の中を拭いたりして清潔を保つようにします。また、食事後の体調や気分の確認を行います。
むせた場合の対応を考慮する
正しい食事姿勢の基本

食事の際は、以下のポイントを意識することが重要です。
✅ 背筋をまっすぐに保つ(軽く前傾する)
➡︎ 背中をしっかり支え、上半身を軽く前に倒すようにします(5〜10度)。これにより、食べ物が自然にのどへ流れやすくなり、誤嚥を防げます。
✅ 足の裏を床につける
➡︎ 体の安定を保ち、食事に集中しやすくなります。足が届かない場合は、足台を使用すると良いです。
✅ 膝と股関節を90度に曲げる
➡︎ 正しい姿勢を保つために、膝と股関節を90度に曲げることを意識します。
✅ 頭がわずかに前に傾く
➡︎ 頭が少し前に傾くことで、のどの圧迫を防ぎ、スムーズに嚥下できます。
✅ 顎を適度に引く(引きすぎない)
➡︎ 顎を引きすぎると気道が圧迫され、誤嚥のリスクが高まります。自然な位置で食べることが理想です。
誤った姿勢とそのリスク

食事中の誤った姿勢は、誤嚥や窒息の原因になります。特に注意が必要です。
❌ 背もたれにもたれかかる(後傾姿勢)
➡︎ のどが開きすぎて誤嚥のリスクが高まります。
❌ 頭を後ろに反らせる(顎が上がる)
➡︎ 食べ物が気道に入りやすくなり、むせやすくなります。
❌ 足が床についていない
➡︎ 体が不安定になり、姿勢を保ちにくくなります。
❌ 首を横に傾ける
➡︎ 片側に食べ物が溜まりやすくなり、むせる原因になります。
姿勢が崩れやすい方への対策
▶ 椅子や車いすの調整
- 座面が低すぎる場合はクッションを敷いて調整します。
- 背中が丸まる場合は、背もたれにクッションやタオルを入れて支えます。
▶ 足台を活用する
- 足が床につかない場合は、足台を置いて安定感を確保します。
▶ 食事専用の姿勢補助グッズを使用する
- 首や背中を支えるためのクッションを使うと、より快適に食事ができます。
食事介助中のコミュニケーション

食事介助では、適切なコミュニケーションを取ることが大切です。安心して食事を楽しめるよう、以下のポイントを意識しましょう。
▶ 食事に関する会話を取り入れる
- 「このおかず、おいしいですね」「ご飯が炊きたてで温かいですね」など、食事の内容について会話をし、楽しい雰囲気を作りましょう。
▶ 食べる意欲を引き出す声かけ
- 「少しずつでも大丈夫ですよ」「もう一口いかがですか?」など、相手をリラックスさせる言葉をかけます。
▶ 体調や好みを確認する
- 「今日は食べやすいですか?」「この味付け、好きですか?」など、相手の状態や好みに合わせて、より食事を楽しんでもらえるよう気配りします。
▶ ゆっくり、穏やかな声で話す
- 落ち着いた口調で話しかけ、相手が安心できるようにする。
▶ 相手のペースに合わせる
- 急かさず、無理に食べさせないようにする。ゆっくり咀嚼する時間を確保。
▶ メニューを伝える
- 「今日は〇〇と〇〇がありますよ」と、提供する食事の内容を説明する。
▶ 次に食べたいものを選んでもらう
- 「次はどれを食べたいですか?」と尋ね、本人の意思を尊重する。
まとめ
正しい姿勢で食事をすることは、安全で楽しい食事の時間を提供するために欠かせません。特に嚥下機能が低下している方には、姿勢を意識した介助が重要になります。また、適切なコミュニケーションを取ることで、食事の時間をより快適で楽しいものにできます。さらに、基本的な食事介助のポイントを押さえることで、よりスムーズな介助が可能になります。日々の食事介助において、姿勢・会話・介助の基本を意識し、安全で快適な食事をサポートしていきましょう。