「認知症」という言葉はよく耳にしますが、具体的にどのようなものか分からない方も多いのではないでしょうか。正しい知識を持つことで、認知症への不安を軽減し、予防につなげるだけでなく、介護にも役立てることができます。

認知症とは?
そもそも「認知症」は、特定の病気の名前ではありません。風邪が鼻水や発熱などさまざまな症状の総称であるように、認知症もさまざまな症状を含む総称です。認知症の原因となる病気はいくつかあります。
認知症の主な原因疾患
他にも、認知症を引き起こす病気は50~100種類ほどあると言われています。
主な症状

認知症とは、上記の病気が原因で脳にダメージが生じ、記憶障害や認知機能障害が起こり、日常生活に支障をきたす状態を指します。
認知症の症状は大きく分けて2種類あります。
1. 中核症状(認知機能の低下)
- 記憶障害:物忘れとは異なり、記憶そのものがなくなってしまう。
- 例)約束をしたことを完全に忘れてしまう、食事をしたことを覚えていない。
- 見当識障害:時間や場所、自分がどこにいるのかが分からなくなる。
- 例)自宅にいるのに「家に帰りたい」と言う、日付や季節の感覚がなくなる。
- 理解・判断力の低下:日常生活の判断が難しくなる。
- 例)買い物に行っても何を買うべきか分からず、必要のないものを大量に買ってしまう。
- 例)おつりの計算ができなくなり、お金を適切に支払えない。
- 失語(言語障害):話す、書く、読むことが難しくなる。
- 例)知っている言葉が出てこず「あれ」「それ」で話すようになる。
- 失行:道具の使い方が分からなくなる。
- 例)歯ブラシの使い方が分からなくなる、料理の手順が分からず作れなくなる。
- 例)服の前後や上下を間違えて着てしまう。
BPSD(認知症の行動と心理症状)
- 夜間不眠:夜に眠れず昼夜逆転してしまう。
- 歩き回る:歩き回り、自宅に戻れなくなることも。
- 例)「家に帰る」と言って外に出て行ってしまい、道に迷う。
- 排泄トラブル:トイレの場所が分からなくなったり、排泄の失敗が増える。
- 例)トイレに間に合わず失敗してしまう、場所を間違えて排泄してしまう。
- 被害妄想、物盗られ妄想:他人に物を盗られたと思い込む。
- 例)「財布を盗まれた」と家族を疑う。
- 夕暮れ症候群:夕方になると不安や焦燥感が強くなる。
- 例)「早く帰らなきゃ」と落ち着きがなくなる。
- 不潔行動:お風呂を嫌がったり、ゴミをため込む。
- 例)「寒いから」と入浴を拒否する。
- 性的異常行動:異性に対して不適切な言動や行動をとる。
- 例)公の場で服を脱いでしまう。
BPSD(認知症の行動と心理症状)は環境の変化や心理状態によって現れることが多く、常に症状が出るわけではありません。
認知症の原因とリスク要因

認知症の原因にはさまざまなものがあります。代表的なものをいくつか紹介します。
アルツハイマー型認知症
- 認知症の中で最も多く、全体の約60~70%を占める。
- 脳に異常なたんぱく質(アミロイドβやタウ)が蓄積し、神経細胞が減少することで発症。
- 記憶を司る海馬が特に影響を受ける。
脳血管性認知症
- 脳梗塞や脳出血などによる血流の途絶が原因。
- 再発を繰り返すたびに認知機能が低下する。
脳梗塞などになった方が必ず、脳血管性認知症になるわけではありません。
前頭側頭型認知症
- 50~60代で発症することが多い。
- 感情や行動の変化が目立つ。
レビー小体型認知症
- レビー小体という異常なたんぱく質が脳内に蓄積することで発症。
- パーキンソン病との関連が深く、幻視が特徴的な症状。
リスク要因
- 加齢:年齢を重ねることでリスクが上昇。
- 遺伝的要因:家族歴があると発症リスクが高まる可能性。
- 生活習慣病:高血圧、糖尿病、脂質異常症など。
- 運動不足:脳への血流が不足し、神経細胞の働きが低下。
- 社会的孤立:人との交流が少ないと認知機能が低下しやすい。
- 頭部外傷:過去に頭を強く打った経験があるとリスクが上がる可能性。
認知症の発症は多くの要因が関係しており、単一の原因では説明できません。そのため、日常生活の中でリスクを減らすことが重要です。
診断と治療の流れ

認知症が疑われる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。診断には、問診、認知機能テスト、MRI検査などが用いられます。
現在、認知症を根本的に治す治療法はありません。しかし、進行を遅らせる薬物療法や、生活環境を整える非薬物療法が行われています。
認知症の予防方法

認知症予防には、生活習慣の改善が有効とされています。しかし、確実に認知症を防げる方法は現在のところ存在しません。
- 運動:ウォーキングや軽い運動で血流を促進。
- 食事:魚や野菜、果物を積極的に摂取。
- 脳トレ:読書やパズルで脳を活性化。
- 社会参加:地域活動や趣味を楽しむ。
これらの取り組みは認知症リスクの低減につながる可能性がありますが、個人差があるため万能ではありません。
まとめ
認知症は正しい知識と早期の対応が重要です。日常生活に工夫を取り入れることで、予防や進行の抑制が期待できます。また、認知症の特徴を理解することで、介護の負担も軽減されます。
自分自身や家族が認知症になってしまったことで、気持ちが沈んでしまうことがあるかもしれません。どう接していけば良いのかわからなくなる時もあるでしょう。
最も大切なのは、認知症の方を否定せず、寄り添うことです。しかし、介護を一人で抱え込まず、家族や地域と協力しながら支えていくことが大切です。
参考サイト
認知症をよく理解するための9大法則・1原則
公益社団法人 認知症の人と家族の会